見るほど感心した頭が自分の監督組の生徒であると聞いて、思わずそうか[#「そうか」に傍点]と心の裏《うち》で手を拍《う》ったのである。しかしこの大きな頭の、古い名の、しかも自分の監督する生徒が何のために今頃やって来たのか頓《とん》と推諒《すいりょう》出来ない。元来不人望な主人の事だから、学校の生徒などは正月だろうが暮だろうがほとんど寄りついた事がない。寄りついたのは古井武右衛門君をもって嚆矢《こうし》とするくらいな珍客であるが、その来訪の主意がわからんには主人も大《おおい》に閉口しているらしい。こんな面白くない人の家《うち》へただ遊びにくる訳もなかろうし、また辞職勧告ならもう少し昂然《こうぜん》と構え込みそうだし、と云って武右衛門君などが一身上の用事相談があるはずがないし、どっちから、どう考えても主人には分らない。武右衛門君の様子を見るとあるいは本人自身にすら何で、ここまで参ったのか判然しないかも知れない。仕方がないから主人からとうとう表向に聞き出した。
「君遊びに来たのか」
「そうじゃないんです」
「それじゃ用事かね」
「ええ」
「学校の事かい」
「ええ、少し御話ししようと思って……」
「うむ。どんな事かね。さあ話したまえ」と云うと武右衛門君下を向いたぎり何《なん》にも言わない。元来武右衛門君は中学の二年生にしてはよく弁ずる方で、頭の大きい割に脳力は発達しておらんが、喋舌《しゃべ》る事においては乙組中|鏘々《そうそう》たるものである。現にせんだってコロンバスの日本訳を教えろと云って大《おおい》に主人を困らしたはまさにこの武右衛門君である。その鏘々たる先生が、最前《さいぜん》から吃《どもり》の御姫様のようにもじもじしているのは、何か云《い》わくのある事でなくてはならん。単に遠慮のみとはとうてい受け取られない。主人も少々不審に思った。
「話す事があるなら、早く話したらいいじゃないか」
「少し話しにくい事で……」
「話しにくい?」と云いながら主人は武右衛門君の顔を見たが、先方は依然として俯向《うつむき》になってるから、何事とも鑑定が出来ない。やむを得ず、少し語勢を変えて「いいさ。何でも話すがいい。ほかに誰も聞いていやしない。わたしも他言《たごん》はしないから」と穏《おだ》やかにつけ加えた。
「話してもいいでしょうか?」と武右衛門君はまだ迷っている。
「いいだろう」と主人は
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