、たちまち死竜《しりゅう》に蒸汽喞筒《じょうきポンプ》を注ぎかけたるごとく、勃然《ぼつぜん》としてその深奥《しんおう》にして窺知《きち》すべからざる、巧妙なる、美妙なる、奇妙なる、霊妙なる、麗質を、惜気もなく発揚し了《おわ》った。しかしてその麗質は天下の女性《にょしょう》に共通なる麗質である。ただ惜しい事には容易にあらわれて来ない。否《いや》あらわれる事は二六時中間断なくあらわれているが、かくのごとく顕著に灼然炳乎《しゃくぜんへいこ》として遠慮なくはあらわれて来ない。幸にして主人のように吾輩の毛をややともすると逆さに撫《な》でたがる旋毛曲《つむじまが》りの奇特家《きどくか》がおったから、かかる狂言も拝見が出来たのであろう。主人のあとさえついてあるけば、どこへ行っても舞台の役者は吾知らず動くに相違ない。面白い男を旦那様に戴《いただ》いて、短かい猫の命のうちにも、大分《だいぶ》多くの経験が出来驕Bありがたい事だ。今度のお客は何者であろう。
見ると年頃は十七八、雪江さんと追《お》っつ、返《か》っつの書生である。大きな頭を地《じ》の隙《す》いて見えるほど刈り込んで団子《だんご》っ鼻《ぱな》を顔の真中にかためて、座敷の隅の方に控《ひか》えている。別にこれと云う特徴もないが頭蓋骨《ずがいこつ》だけはすこぶる大きい。青坊主に刈ってさえ、ああ大きく見えるのだから、主人のように長く延ばしたら定めし人目を惹《ひ》く事だろう。こんな顔にかぎって学問はあまり出来ない者だとは、かねてより主人の持説である。事実はそうかも知れないがちょっと見るとナポレオンのようですこぶる偉観である。着物は通例の書生のごとく、薩摩絣《さつまがすり》か、久留米《くるめ》がすりかまた伊予《いよ》絣か分らないが、ともかくも絣《かすり》と名づけられたる袷《あわせ》を袖短かに着こなして、下には襯衣《シャツ》も襦袢《じゅばん》もないようだ。素袷《すあわせ》や素足《すあし》は意気なものだそうだが、この男のはなはだむさ苦しい感じを与える。ことに畳の上に泥棒のような親指を歴然と三つまで印《いん》しているのは全く素足の責任に相違ない。彼は四つ目の足跡の上へちゃんと坐って、さも窮屈そうに畏《か》しこまっている。一体かしこまるべきものがおとなしく控《ひか》えるのは別段気にするにも及ばんが、毬栗頭《いがぐりあたま》のつんつるてんの乱暴者
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