いだろう、欲しければ取りにおいでと札を出したり引っ込ましたりしたがこれもまるで益《やく》に立たないんですって。よっぽど頑固《がんこ》な地蔵様なのよ」
「そうね。すこし叔父さんに似ているわ」
「ええまるで叔父さんよ、しまいに利口な人も愛想《あいそ》をつかしてやめてしまったんですとさ。それでそのあとからね、大きな法螺《ほら》を吹く人が出て、私《わたし》ならきっと片づけて見せますからご安心なさいとさも容易《たやす》い事のように受合ったそうです」
「その法螺を吹く人は何をしたんです」
「それが面白いのよ。最初にはね巡査の服をきて、付《つ》け髯《ひげ》をして、地蔵様の前へきて、こらこら、動かんとその方のためにならんぞ、警察で棄てておかんぞと威張って見せたんですとさ。今の世に警察の仮声《こわいろ》なんか使ったって誰も聞きゃしないわね」
「本当ね、それで地蔵様は動いたの?」
「動くもんですか、叔父さんですもの」
「でも叔父さんは警察には大変恐れ入っているのよ」
「あらそう、あんな顔をして? それじゃ、そんなに怖《こわ》い事はないわね。けれども地蔵様は動かないんですって、平気でいるんですとさ。それで法螺吹は大変|怒《おこ》って、巡査の服を脱いで、付け髯を紙屑籠《かみくずかご》へ抛《ほう》り込んで、今度は大金持ちの服装《なり》をして出て来たそうです。今の世で云うと岩崎男爵のような顔をするんですとさ。おかしいわね」
「岩崎のような顔ってどんな顔なの?」
「ただ大きな顔をするんでしょう。そうして何もしないで、また何も云わないで地蔵の周《まわ》りを、大きな巻煙草《まきたばこ》をふかしながら歩行《ある》いているんですとさ」
「それが何になるの?」
「地蔵様を煙《けむ》に捲《ま》くんです」
「まるで噺《はな》し家《か》の洒落《しゃれ》のようね。首尾よく煙《けむ》に捲《ま》いたの?」
「駄目ですわ、相手が石ですもの。ごまかしもたいていにすればいいのに、今度は殿下さまに化けて来たんだって。馬鹿ね」
「へえ、その時分にも殿下さまがあるの?」
「有るんでしょう。八木先生はそうおっしゃってよ。たしかに殿下様に化けたんだって、恐れ多い事だが化けて来たって――第一不敬じゃありませんか、法螺吹《ほらふ》きの分際《ぶんざい》で」
「殿下って、どの殿下さまなの」
「どの殿下さまですか、どの殿下さまだって不敬ですわ
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