ェ団体として細胞のように崩《くず》れたり、持ち上ったり、持ち上ったり、崩れたりして暮して行くのを社会と云うのではないか知らん。その中で多少|理窟《りくつ》がわかって、分別のある奴はかえって邪魔になるから、瘋癲院《ふうてんいん》というものを作って、ここへ押し込めて出られないようにするのではないかしらん。すると瘋癲院に幽閉されているものは普通の人で、院外にあばれているものはかえって気狂である。気狂も孤立している間はどこまでも気狂にされてしまうが、団体となって勢力が出ると、健全の人間になってしまうのかも知れない。大きな気狂が金力や威力を濫用《らんよう》して多くの小気狂《しょうきちがい》を使役《しえき》して趨\を働いて、人から立派な男だと云われている例は少なくない。何が何だか分らなくなった」
 以上は主人が当夜|煢々《けいけい》たる孤灯の下《もと》で沈思熟慮した時の心的作用をありのままに描《えが》き出したものである。彼の頭脳の不透明なる事はここにも著るしくあらわれている。彼はカイゼルに似た八字髯《はちじひげ》を蓄《たくわ》うるにもかかわらず狂人と常人の差別さえなし得ぬくらいの凡倉《ぼんくら》である。のみならず彼はせっかくこの問題を提供して自己の思索力に訴えながら、ついに何等の結論に達せずしてやめてしまった。何事によらず彼は徹底的に考える脳力のない男である。彼の結論の茫漠《ぼうばく》として、彼の鼻孔から迸出《ほうしゅつ》する朝日の煙のごとく、捕捉《ほそく》しがたきは、彼の議論における唯一の特色として記憶すべき事実である。
 吾輩は猫である。猫の癖にどうして主人の心中をかく精密に記述し得るかと疑うものがあるかも知れんが、このくらいな事は猫にとって何でもない。吾輩はこれで読心術を心得ている。いつ心得たなんて、そんな余計な事は聞かんでもいい。ともかくも心得ている。人間の膝《ひざ》の上へ乗って眠っているうちに、吾輩は吾輩の柔かな毛衣《けごろも》をそっと人間の腹にこすり付ける。すると一道の電気が起って彼の腹の中のいきさつが手にとるように吾輩の心眼に映ずる。せんだってなどは主人がやさしく吾輩の頭を撫《な》で廻しながら、突然この猫の皮を剥《は》いでちゃんちゃん[#「ちゃんちゃん」に傍点]にしたらさぞあたたかでよかろうと飛んでもない了見《りょうけん》をむらむらと起したのを即座に気取《けど》って
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