ナすから無暗《むやみ》に痩我慢を張るんでしょう。昔からああ云う癖のある男で、つまり自分の損になる事に気が付かないんですから度《ど》し難《がた》いです」
「あはははほんとに度《ど》し難《がた》い。いろいろ手を易《か》え品を易《か》えてやって見るんだがね。とうとうしまいに学校の生徒にやらした」
「そいつは妙案ですな。利目《ききめ》がございましたか」
「これにゃあ、奴も大分《だいぶ》困ったようだ。もう遠からず落城するに極《きま》っている」
「そりゃ結構です。いくら威張っても多勢《たぜい》に無勢《ぶぜい》ですからな」
「そうさ、一人じゃあ仕方がねえ。それで大分《だいぶ》弱ったようだが、まあどんな様子か君に行って見て来てもらおうと云うのさ」
「はあ、そうですか。なに訳はありません。すぐ行って見ましょう。容子《ようす》は帰りがけに御報知を致す事にして。面白いでしょう、あの頑固《がんこ》なのが意気銷沈《いきしょうちん》しているところは、きっと見物《みもの》ですよ」
「ああ、それじゃ帰りに御寄り、待っているから」
「それでは御免蒙《ごめんこうむ》ります」
おや今度もまた魂胆《こんたん》だ、なるほど実業家の勢力はえらいものだ、石炭の燃殻《もえがら》のような主人を逆上させるのも、苦悶《くもん》の結果主人の頭が蠅滑《はえすべ》りの難所となるのも、その頭がイスキラスと同様の運命に陥《おちい》るのも皆実業家の勢力である。地球が地軸を廻転するのは何の作用かわからないが、世の中を動かすものはたしかに金である。この金の功力《くりき》を心得て、この金の威光を自由に発揮するものは実業家諸君をおいてほかに一人もない。太陽が無事に東から出て、無事に西へ入るのも全く実業家の御蔭である。今まではわからずやの窮措大《きゅうそだい》の家に養なわれて実業家の御利益《ごりやく》を知らなかったのは、我ながら不覚である。それにしても冥頑不霊《めいがんふれい》の主人も今度は少し悟らずばなるまい。これでも冥頑不霊で押し通す了見だと危《あぶ》ない。主人のもっとも貴重する命があぶない。彼は鈴木君に逢ってどんな挨拶をするのか知らん。その模様で彼の悟り具合も自《おのず》から分明《ぶんみょう》になる。愚図愚図してはおられん、猫だって主人の事だから大《おおい》に心配になる。早々鈴木君をすり抜けて御先へ帰宅する。
鈴木君はあいかわらず
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