l《ふたり》がばったりと出逢ったのである。近来は金田の邸内も珍らしくなくなったから、滅多《めった》にあちらの方角へは足が向かなかったが、こう御目に懸って見ると、何となく御懐《おなつ》かしい。鈴木にも久々《ひさびさ》だから余所《よそ》ながら拝顔の栄を得ておこう。こう決心してのそのそ御両君の佇立《ちょりつ》しておらるる傍《そば》近く歩み寄って見ると、自然両君の談話が耳に入《い》る。これは吾輩の罪ではない。先方が話しているのがわるいのだ。金田君は探偵さえ付けて主人の動静を窺《うか》がうくらいの程度の良心を有している男だから、吾輩が偶然君の談話を拝聴したって怒《おこ》らるる気遣《きづかい》はあるまい。もし怒られたら君は公平と云う意味を御承知ないのである。とにかく吾輩は両君の談話を聞いたのである。聞きたくて聴いたのではない。聞きたくもないのに談話の方で吾輩の耳の中へ飛び込んで来たのである。
「只今御宅へ伺いましたところで、ちょうどよい所で御目にかかりました」と藤《とう》さんは鄭寧《ていねい》に頭をぴょこつかせる。
「うむ、そうかえ。実はこないだから、君にちょっと逢いたいと思っていたがね。それはよかった」
「へえ、それは好都合でございました。何かご用で」
「いや何、大した事でもないのさ。どうでもいいんだが、君でないと出来ない事なんだ」
「私に出来る事なら何でもやりましょう。どんな事で」
「ええ、そう……」と考えている。
「何なら、御都合のとき出直して伺いましょう。いつが宜《よろ》しゅう、ございますか」
「なあに、そんな大した事じゃ無いのさ。――それじゃせっかくだから頼もうか」
「どうか御遠慮なく……」
「あの変人ね。そら君の旧友さ。苦沙弥とか何とか云うじゃないか」
「ええ苦沙弥がどうかしましたか」
「いえ、どうもせんがね。あの事件以来|胸糞《むなくそ》がわるくってね」
「ごもっともで、全く苦沙弥は剛慢ですから……少しは自分の社会上の地位を考えているといいのですけれども、まるで一人天下ですから」
「そこさ。金に頭はさげん、実業家なんぞ――とか何とか、いろいろ小生意気な事を云うから、そんなら実業家の腕前を見せてやろう、と思ってね。こないだから大分《だいぶ》弱らしているんだが、やっぱり頑張《がんば》っているんだ。どうも剛情な奴だ。驚ろいたよ」
「どうも損得と云う観念の乏《とぼ》しい奴
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