で、当人に逢って篤《とく》と主意のあるところを糺《ただ》して見たのですが、当人もそんな事は知らないよと云って取り合わないのです。全くその辺が詩人の特色かと思います」「詩人かも知れないが随分妙な男ですね」と主人が云うと、迷亭が「馬鹿だよ」と単簡《たんかん》に送籍君を打ち留めた。東風君はこれだけではまだ弁じ足りない。「送籍は吾々仲間のうちでも取除《とりの》けですが、私の詩もどうか心持ちその気で読んでいただきたいので。ことに御注意を願いたいのはからき[#「からき」に傍点]この世と、あまき[#「あまき」に傍点]口づけと対《つい》をとったところが私の苦心です」「よほど苦心をなすった痕迹《こんせき》が見えます」「あまい[#「あまい」に傍点]とからい[#「からい」に傍点]と反照するところなんか十七味調《じゅうしちみちょう》唐辛子調《とうがらしちょう》で面白い。全く東風君独特の伎倆で敬々服々の至りだ」としきりに正直な人をまぜ返して喜んでいる。
主人は何と思ったか、ふいと立って書斎の方へ行ったがやがて一枚の半紙を持って出てくる。「東風君の御作も拝見したから、今度は僕が短文を読んで諸君の御批評を願おう」といささか本気の沙汰である。「天然居士《てんねんこじ》の墓碑銘《ぼひめい》ならもう二三遍拝聴したよ」「まあ、だまっていなさい。東風さん、これは決して得意のものではありませんが、ほんの座興ですから聴いて下さい」「是非伺がいましょう」「寒月君もついでに聞き給え」「ついででなくても聴きますよ。長い物じゃないでしょう」「僅々六十余字さ」と苦沙弥先生いよいよ手製の名文を読み始める。
「大和魂《やまとだましい》! と叫んで日本人が肺病やみのような咳《せき》をした」
「起し得て突兀《とっこつ》ですね」と寒月君がほめる。
「大和魂! と新聞屋が云う。大和魂! と掏摸《すり》が云う。大和魂が一躍して海を渡った。英国で大和魂の演説をする。独逸《ドイツ》で大和魂の芝居をする」
「なるほどこりゃ天然居士《てんねんこじ》以上の作だ」と今度は迷亭先生がそり返って見せる。
「東郷大将が大和魂を有《も》っている。肴屋《さかなや》の銀さんも大和魂を有っている。詐偽師《さぎし》、山師《やまし》、人殺しも大和魂を有っている」
「先生そこへ寒月も有っているとつけて下さい」
「大和魂はどんなものかと聞いたら、大和魂さと答えて行
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