寸ばかりの釘付《くぎづ》けにした箱が大事そうに置いてある。これは肥前の国は唐津《からつ》の住人|多々良三平君《たたらさんぺいくん》が先日帰省した時|御土産《おみやげ》に持って来た山の芋《いも》である。山の芋を枕元へ飾って寝るのはあまり例のない話しではあるがこの細君は煮物に使う三盆《さんぼん》を用箪笥《ようだんす》へ入れるくらい場所の適不適と云う観念に乏しい女であるから、細君にとれば、山の芋は愚《おろ》か、沢庵《たくあん》が寝室に在《あ》っても平気かも知れん。しかし神ならぬ陰士はそんな女と知ろうはずがない。かくまで鄭重《ていちょう》に肌身に近く置いてある以上は大切な品物であろうと鑑定するのも無理はない。陰士はちょっと山の芋の箱を上げて見たがその重さが陰士の予期と合して大分《だいぶ》目方が懸《かか》りそうなのですこぶる満足の体《てい》である。いよいよ山の芋を盗むなと思ったら、しかもこの好男子にして山の芋を盗むなと思ったら急におかしくなった。しかし滅多《めった》に声を立てると危険であるからじっと怺《こら》えている。
やがて陰士は山の芋の箱を恭《うやうや》しく古毛布《ふるげっと》にくるみ初めた。なにかからげるものはないかとあたりを見廻す。と、幸い主人が寝る時に解《と》きすてた縮緬《ちりめん》の兵古帯《へこおび》がある。陰士は山の芋の箱をこの帯でしっかり括《くく》って、苦もなく背中へしょう。あまり女が好《す》く体裁ではない。それから小供のちゃんちゃんを二枚、主人のめり安《やす》の股引《ももひき》の中へ押し込むと、股のあたりが丸く膨《ふく》れて青大将《あおだいしょう》が蛙《かえる》を飲んだような――あるいは青大将の臨月《りんげつ》と云う方がよく形容し得るかも知れん。とにかく変な恰好《かっこう》になった。嘘だと思うなら試しにやって見るがよろしい。陰士はめり安をぐるぐる首《くび》っ環《たま》へ捲《ま》きつけた。その次はどうするかと思うと主人の紬《つむぎ》の上着を大風呂敷のように拡《ひろ》げてこれに細君の帯と主人の羽織と繻絆《じゅばん》とその他あらゆる雑物《ぞうもつ》を奇麗に畳んでくるみ込む。その熟練と器用なやり口にもちょっと感心した。それから細君の帯上げとしごきとを続《つ》ぎ合わせてこの包みを括《くく》って片手にさげる。まだ頂戴《ちょうだい》するものは無いかなと、あたりを見廻して
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