]と云《い》うような胡乱《うろん》な文字を使用した?――さあ、それがすこぶる意味のある事だて。元来吾輩の考によると大空《たいくう》は万物を覆《おお》うため大地は万物を載《の》せるために出来ている――いかに執拗《しつよう》な議論を好む人間でもこの事実を否定する訳には行くまい。さてこの大空大地《たいくうだいち》を製造するために彼等人類はどのくらいの労力を費《つい》やしているかと云うと尺寸《せきすん》の手伝もしておらぬではないか。自分が製造しておらぬものを自分の所有と極《き》める法はなかろう。自分の所有と極めても差《さ》し支《つか》えないが他の出入《しゅつにゅう》を禁ずる理由はあるまい。この茫々《ぼうぼう》たる大地を、小賢《こざか》しくも垣を囲《めぐ》らし棒杭《ぼうぐい》を立てて某々所有地などと劃《かく》し限るのはあたかもかの蒼天《そうてん》に縄張《なわばり》して、この部分は我《われ》の天、あの部分は彼《かれ》の天と届け出るような者だ。もし土地を切り刻んで一坪いくらの所有権を売買するなら我等が呼吸する空気を一尺立方に割って切売をしても善い訳である。空気の切売が出来ず、空の縄張が不当なら地面の私有も不合理ではないか。如是観《にょぜかん》によりて、如是法《にょぜほう》を信じている吾輩はそれだからどこへでも這入《はい》って行く。もっとも行きたくない処へは行かぬが、志す方角へは東西南北の差別は入らぬ、平気な顔をして、のそのそと参る。金田ごときものに遠慮をする訳がない。――しかし猫の悲しさは力ずくでは到底《とうトい》人間には叶《かな》わない。強勢は権利なりとの格言さえあるこの浮世に存在する以上は、いかにこっちに道理があっても猫の議論は通らない。無理に通そうとすると車屋の黒のごとく不意に肴屋《さかなや》の天秤棒《てんびんぼう》を喰《くら》う恐れがある。理はこっちにあるが権力は向うにあると云う場合に、理を曲げて一も二もなく屈従するか、または権力の目を掠《かす》めて我理を貫くかと云えば、吾輩は無論後者を択《えら》ぶのである。天秤棒は避けざるべからざるが故に、忍[#「忍」に傍点]ばざるべからず。人の邸内へは這入り込んで差支《さしつか》えなき故込[#「込」に傍点]まざるを得ず。この故に吾輩は金田邸へ忍び込む[#「忍び込む」に傍点]のである。
忍び込む度《ど》が重なるにつけ、探偵をする気はな
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