れないが、そうすれば彼の懐疑は一生徹底的に解ける日は来なかったでしょう。またここまで押してみれば女の真心《まごころ》が明かになるにはなるが、取返しのつかない残酷な結果に陥った後から回顧して見れば、やはり真実|懸価《かけね》のない実相は分らなくても好いから、女を片輪にさせずにおきたかったでありましょう。日本の現代開化の真相もこの話と同様で、分らないうちこそ研究もして見たいが、こう露骨にその性質が分って見るとかえって分らない昔の方が幸福であるという気にもなります。とにかく私の解剖した事が本当のところだとすれば我々は日本の将来というものについてどうしても悲観したくなるのであります。外国人に対して乃公《おれ》の国には富士山があるというような馬鹿は今日はあまり云わないようだが、戦争以後一等国になったんだという高慢な声は随所に聞くようである。なかなか気楽な見方をすればできるものだと思います。ではどうしてこの急場を切り抜けるかと質問されても、前《ぜん》申した通り私には名案も何もない。ただできるだけ神経衰弱に罹《かか》らない程度において、内発的に変化して行くが好かろうというような体裁の好いことを言うよ
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