先決問題がある。――先決問題だよ、糸公」
「だから、どんなって、聞いてるじゃありませんか」
「ほかでもないが、甲野が坊主になるって騒ぎなんだよ」
「馬鹿をおっしゃい。縁喜《えんぎ》でもない」
「なに、今の世に坊主になるくらいな決心があるなら、縁喜はともかく、大《おおい》に慶すべき現象だ」
「苛《ひど》い事を……だって坊さんになるのは、酔興《すいきょう》になるんじゃないでしょう」
「何とも云えない。近頃のように煩悶《はんもん》が流行した日にゃ」
「じゃ、兄さんからなって御覧なさいよ」
「酔興にかい」
「酔興でも何でもいいから」
「だって五分刈《ごぶがり》でさえ懲役人と間違えられるところを青坊主になって、外国の公使館に詰めていりゃ気違としきゃ思われないもの。ほかの事なら一人の妹の事だから何でも聞くつもりだが、坊主だけは勘弁して貰いたい。坊主と油揚《あぶらげ》は小供の時から嫌《きらい》なんだから」
「じゃ欽吾さんもならないだって好いじゃありませんか」
「そうさ、何だか論理《ロジック》が少し変だが、しかしまあ、ならずに済むだろうよ」
「兄さんのおっしゃる事はどこまでが真面目《まじめ》でどこまで
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