しまったって仕方がないから」
「何とか云って断ったのね」
「欽吾がどうあっても嫁を貰《もら》うと云ってくれません。私も取る年で心細うございますから」と一と息に下《くだ》して来る。ちょっと御茶を呑む。
「年を取って心細いから」
「心細いから、欽吾《あれ》があのまま押し通す料簡《りょうけん》なら、藤尾に養子でもして掛かるよりほかに致し方がございません。すると一《はじめ》さんは大事な宗近家の御相続人だから私共へいらしっていただく訳にも行かず、また藤尾を差し上げる訳にも参らなくなりますから……」
「それじゃ兄さんがもしや御嫁を貰うと云い出したら困るでしょう」
「なに大丈夫だよ」と母は浅黒い額へ癇癪《かんしゃく》の八の字を寄せた。八の字はすぐとれる。やがて云う。
「貰うなら、貰うで、糸子《いとこ》でも何でも勝手な人を貰うがいいやね。こっちはこっちで早く小野さんを入れてしまうから」
「でも宗近の方は」
「いいよ。そう心配しないでも」と地烈太《じれった》そうに云い切った後で
「外交官の試験に及第しないうちは嫁どころじゃないやね」と付けた。
「もし及第したら、すぐ何か云うでしょう」
「だって、彼《あの
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