しはこっちの様子でも分りそうなもんですがね」
母は黙っている。
「この間金時計を宗近《むねちか》にやれって云った時でも……」
「小野さんに上げると御云いのかい」
「小野さんにとは云わないけれども。一《はじめ》さんに上げるとは云わなかったわ」
「妙だよあの人は。藤尾に養子をして、面倒を見て御貰《おもら》いなさいと云うかと思うと、やっぱり御前を一にやりたいんだよ。だって一は一人息子じゃないか。養子なんぞに来られるものかね」
「ふん」と受けた藤尾は、細い首を横に庭の方《かた》を見る。夕暮を促がすとのみ眺められた浅葱桜《あさぎざくら》は、ことごとく梢《こずえ》を辞して、光る茶色の嫩葉《わかば》さえ吹き出している。左に茂る三四本の扇骨木《かなめ》の丸く刈り込まれた間から、書斎の窓が少し見える。思うさま片寄って枝を伸《の》した桜の幹を、右へ離れると池になる。池が尽きれば張り出した自分の座敷である。
静かな庭を一目見廻わした藤尾は再び横顔を返して、母を真向《まむき》に見る。母はさっきから藤尾の方を向いたなり眼を放さない。二人が顔を合せた時、何を思ったか、藤尾は美くしい片頬《かたほ》をむずつかせた
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