よ。人間ほど分らんものはない。小野もそれからだいぶ変ったろう。何しろ五年も逢わないんだから……」
「でも御丈夫だから結構ですわ」
「そうさ。京都へ来てから大変丈夫になった。来たては随分|蒼《あお》い顔をしてね、そうして何だか始終《しじゅう》おどおどしていたようだが、馴れるとだんだん平気になって……」
「性質が柔和《やさし》いんですよ」
「柔和いんだよ。柔和過ぎるよ。――でも卒業の成績が優等で銀時計をちょうだいして、まあ結構だ。――人の世話はするもんだね。ああ云う性質《たち》の好い男でも、あのまま放《ほう》って置けばそれぎり、どこへどう這入《はい》ってしまうか分らない」
「本当にね」
明かなる夢は輪を描《えが》いて胸のうちに回《めぐ》り出す。死したる夢ではない。五年の底から浮き刻《ぼ》りの深き記憶を離れて、咫尺《しせき》に飛び上がって来る。女はただ眸《ひとみ》を凝《こ》らして眼前に逼《せま》る夢の、明らかに過ぐるほどの光景を右から、左から、前後上下から見る。夢を見るに心を奪われたる人は、老いたる親の髯《ひげ》を忘れる。小夜子は口をきかなくなった。
「小野は新橋まで迎《むかえ》にくるだろ
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