》を棚《たな》へ上げた腰を卸《おろ》しながら笑う。相手は半分顔を背《そむ》けて硝子越《ガラスごし》に窓の外を透《すか》して見る。外はただ暗いばかりである。汽車は遠慮もなく暗いなかを突切って行く。轟《ごう》と云う音のみする。人間は無能力である。
「随分早いね。何|哩《マイル》くらいの速力か知らん」と宗近君が席の上へ胡坐《あぐら》をかきながら云う。
「どのくらい早いか外が真暗でちっとも分らん」
「外が暗くったって、早いじゃないか」
「比較するものが見えないから分らないよ」
「見えなくったって、早いさ」
「君には分るのか」
「うん、ちゃんと分る」と宗近君は威張って胡坐をかき直す。話しはまた途切れる。汽車は速度を増して行く。向《むこう》の棚《たな》に載せた誰やらの帽子が、傾いたまま、山高の頂《いただき》を顫《ふる》わせている。給仕《ボーイ》が時々室内を抜ける。大抵の乗客は向い合せに顔と顔を見守っている。
「どうしても早いよ。おい」と宗近君はまた話しかける。甲野さんは半分眼を眠《ねむ》っていた。
「ええ?」
「どうしてもね、――早いよ」
「そうか」
「うん。そうら――早いだろう」
汽車は轟《ご
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