りながら落第はこれでたった一遍だ」
「一度受けて一遍なんだから、これからさき……」
「何遍やるか分らないとなると、おれも少々心細い。ハハハハ。時に僕の雅号はそれでいいが、君は全体何をするんだい」
「僕か。僕は叡山へ登るのさ。――おい君、そう後足《あとあし》で石を転《ころ》がしてはいかん。後《あと》から尾《つ》いて行くものが剣呑《けんのん》だ。――ああ随分くたびれた。僕はここで休むよ」と甲野さんは、がさりと音を立てて枯薄《かれすすき》の中へ仰向《あおむ》けに倒れた。
「おやもう落第か。口でこそいろいろな雅号を唱《とな》えるが、山登りはから駄目だね」と宗近君は例の桜の杖《つえ》で、甲野さんの寝《ね》ている頭の先をこつこつ敲《たた》く。敲くたびに杖の先が薄を薙《な》ぎ倒してがさがさ音を立てる。
「さあ起きた。もう少しで頂上だ。どうせ休むなら及第してから、ゆっくり休もう。さあ起きろ」
「うん」
「うんか、おやおや」
「反吐《へど》が出そうだ」
「反吐を吐いて落第するのか、おやおや。じゃ仕方がない。おれも一《ひ》と休息《やすみ》仕《つかまつ》ろう」
 甲野さんは黒い頭を、黄ばんだ草の間に押し込ん
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