ち切った箔《はく》の小口だけが鮮《あざや》かに見える。間から紫の栞《しおり》の房が長く垂れている。栞を差し込んだ頁《ページ》の上から七行目に「埃及《エジプト》の御代《みよ》しろし召す人の最後ぞ、かくありてこそ」の一句がある。色鉛筆で細い筋を入れてある。
 すべてが美くしい。美くしいもののなかに横《よこた》わる人の顔も美くしい。驕《おご》る眼は長《とこしな》えに閉じた。驕る眼を眠《ねむ》った藤尾の眉《まゆ》は、額は、黒髪は、天女《てんにょ》のごとく美くしい。
「御線香が切れやしないかしら」と母は次《つぎ》の間《ま》から立ちかかる。
「今上げて来ました」と欽吾が云う。膝《ひざ》を正しく組み合わして、手を拱《こまぬ》いている。
「一《はじめ》さんも上げてやって下さい」
「私《わたし》も今上げて来た」
 線香の香《におい》は藤尾の部屋から、思い出したように吹いてくる。燃え切った灰は、棒のままで、はたりはたりと香炉の中に倒れつつある。銀屏《ぎんびょう》は知らぬ間《ま》に薫《くゆ》る。
「小野さんは、まだ来ないんですか」と母が云う。
「もう来るでしょう。今呼びにやりました」と欽吾が云う。
 部屋はわざと立て切った。隔《へだて》の襖《ふすま》だけは明けてある。片輪車の友禅《ゆうぜん》の裾《すそ》だけが見える。あとは芭蕉布《ばしょうふ》の唐紙《からかみ》で万事を隠す。幽冥《ゆうめい》を仕切る縁《ふち》は黒である。一寸幅に鴨居《かもい》から敷居《しきい》まで真直《まっすぐ》に貫いている。母は襖《ふすま》のこちらに坐りながら、折々は、見えぬ所を覗《のぞ》き込むように、首を傾けて背を反《そ》らす。冷かな足よりも冷かな顔の方が気にかかる。覗くたびに黒い縁は、すっきりと友禅の小夜着《こよぎ》を斜《はす》に断ち切っている。写せばそのままの模様画になる。
「御叔母《おば》さん、飛んだ事になって、御気の毒だが、仕方がない。御諦《おあきらめ》なさい」
「こんな事になろうとは……」
「泣いたって、今更《いまさら》しようがない。因果《いんが》だ」
「本当に残念な事をしました」と眼を拭う。
「あんまり泣くとかえって供養《くよう》にならない。それより後《あと》の始末が大事ですよ。こうなっちゃ、是非甲野さんにいてもらうより仕方がないんだから、その気になってやらないと、あなたが困るばかりだ」
 母はわっと泣き出
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