鸚鵡の嘴《くちばし》で突つかれそうに近く、鳥の傍《そば》へ持って行く。鸚鵡は羽搏《はばた》きをして、しきりに鳴き立てる。御爺さんの出ないときは、娘が長い裾《すそ》を引いて、絶え間なく芝刈《しばかり》器械をローンの上に転《ころ》がしている。この記憶に富んだ庭も、今は全く霧《きり》に埋《うま》って、荒果《あれは》てた自分の下宿のそれと、何の境もなくのべつに続いている。
 裏通りを隔《へだ》てて向う側に高いゴシック式の教会の塔がある。その塔の灰色に空を刺す天辺《てっぺん》でいつでも鐘が鳴る。日曜はことにはなはだしい。今日は鋭く尖《とが》った頂きは無論の事、切石を不揃《ふそろい》に畳み上げた胴中《どうなか》さえ所在《ありか》がまるで分らない。それかと思うところが、心持黒いようでもあるが、鐘の音《ね》はまるで響かない。鐘の形の見えない濃い影の奥に深く鎖《とざ》された。
 表へ出ると二間ばかり先は見える。その二間を行き尽くすとまた二間ばかり先が見えて来る。世の中が二間四方に縮《ちぢ》まったかと思うと、歩けば歩《あ》るくほど新しい二間四方が露《あら》われる。その代り今通って来た過去の世界は通るに任《まか》せて消えて行く。
 四つ角でバスを待ち合せていると、鼠色《ねずみいろ》の空気が切り抜かれて急に眼の前へ馬の首が出た。それだのにバスの屋根にいる人は、まだ霧を出切らずにいる。こっちから霧を冒《おか》して、飛乗って下を見ると、馬の首はもう薄ぼんやりしている。バスが行き逢《あ》うときは、行き逢った時だけ奇麗《きれい》だなと思う。思う間もなく色のあるものは、濁った空《くう》の中に消えてしまう。漠々《ばくばく》として無色の裡《うち》に包まれて行った。ウェストミンスター橋を通るとき、白いものが一二度眼を掠《かす》めて翻《ひる》がえった。眸《ひとみ》を凝《こ》らして、その行方《ゆくえ》を見つめていると、封じ込められた大気の裡《うち》に、鴎《かもめ》が夢のように微《かす》かに飛んでいた。その時頭の上でビッグベンが厳《おごそか》に十時を打ち出した。仰ぐと空の中でただ音《おん》だけがする。
 ヴィクトリヤで用を足《た》して、テート画館の傍《はた》を河沿《かわぞい》にバタシーまで来ると、今まで鼠色《ねずみいろ》に見えた世界が、突然と四方からばったり暮れた。泥炭《ピート》を溶《と》いて濃く、身の周囲《ま
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