たちまち親しくなってしまった。K君の部屋は美くしい絨※[#「疉+毛」、第4水準2−78−16]《じゅうたん》が敷いてあって、白絹《しらぎぬ》の窓掛《まどかけ》が下がっていて、立派な安楽椅子とロッキング・チェアが備えつけてある上に、小さな寝室が別に附属している。何より嬉《うれ》しいのは断えず煖炉《ストーブ》に火を焚《た》いて、惜気《おしげ》もなく光った石炭を崩《くず》している事である。
これから自分はK君の部屋で、K君と二人で茶を飲むことにした。昼はよく近所の料理店《りょうりや》へいっしょに出かけた。勘定《かんじょう》は必ずK君が払ってくれた。K君は何でも築港の調査に来ているとか云って、だいぶ金を持っていた。家《うち》にいると、海老茶《えびちゃ》の繻子《しゅす》に花鳥の刺繍《ぬいとり》のあるドレッシング・ガウンを着て、はなはだ愉快そうであった。これに反して自分は日本を出たままの着物がだいぶ汚《よご》れて、見共《みとも》ない始末であった。K君はあまりだと云って新調の費用を貸してくれた。
二週間の間K君と自分とはいろいろな事を話した。K君が、今に慶応内閣《けいおうないかく》を作るんだと云った事がある。慶応年間に生れたものだけで内閣を作るから慶応内閣と云うんだそうである。自分に、君はいつの生れかと聞くから慶応三年だと答えたら、それじゃ、閣員の資格があると笑っていた。K君はたしか慶応二年か元年生れだと覚えている。自分はもう一年の事で、K君と共に枢機《すうき》に参する権利を失うところであった。
こんな面白い話をしている間に、時々下の家族が噂《うわさ》に上《のぼ》る事があった。するとK君はいつでも眉《まゆ》をひそめて、首を振っていた。アグニスと云う小さい女が一番|可愛想《かわいそう》だと云っていた。アグニスは朝になると石炭をK君の部屋に持って来る。昼過には茶とバタと麺麭《パン》を持って来る。だまって持って来て、だまって置いて帰る。いつ見ても蒼褪《あおざ》めた顔をして、大きな潤《うるおい》のある眼でちょっと挨拶《あいさつ》をするだけである。影のようにあらわれては影のように下りて行く。かつて足音のした試しがない。
ある時自分は、不愉快だから、この家《うち》を出ようと思うとK君に告げた。K君は賛成して、自分はこうして調査のため方々飛び歩いている身体《からだ》だから、構わないが、
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