つ》何《ど》んな事があったかの記憶を心のうちに呼び起すでしょう、しかも貴方の表現したような特別な観察点に立って、自分がいまだかつて経験しなかったような記憶を新らしくするでしょう。此二つの記憶が経となり緯となって、ただでは得られない愉快が頭の中に満ちて来るかも知れません。忙がしい我々は毎日々々|蛇《へび》が衣を脱ぐように、我々の過去を未練なく脱いで、ひたすら先へ先へと進むようですが、たまには落ち付いて今迄通って来た途《みち》を振り向きたくなるものです。其時|茫然《ぼうぜん》と考えている丈《だけ》では、眼に映る過去は、映らない時と大差なき位に、貧弱なものであります。あなたの太い線、大きな手、変な顔、すべてあなたに特有な形で描かれた簡単な画は、其時我々に過去は斯《こ》んなものだと教えて呉《く》れるのです。過去はこれ程馬鹿気て、愉快で、変てこに滑稽《こっけい》に通過されたのだと教えて呉《く》れるのです。我々は落付いた眼に笑を湛《たた》えて又|齷齪《あくせく》と先へ進む事が出来ます。あなたの観察に皮肉はありますが、苦々《にがにが》しい所はないのですから。
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