コンラッドの描きたる自然について
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)傾《かたむき》が
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)主客|顛倒《てんとう》の
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一月二十七日の読売新聞で日高未徹君は、余の国民記者に話した、コンラッドの小説は自然に重きをおき過ぎるの結果主客|顛倒《てんとう》の傾《かたむき》があると云う所見を非難せられた。
日高君の説によると、コンラッドは背景として自然を用いたのではない、自然を人間と対等に取扱ったのである、自然の活動が人間の活動と相交渉し、相対立する場合を写した作物である。これを主客顛倒と見るのは始めから自然は客であるべきはずとの僻目《ひがめ》から起るのである。――まあこういうのが非難の要点である。
いかにもごもっともな御説で、余はこれに反対すると云わんよりは、むしろ大賛成を表したいくらいである。せんだってもある人がコンラッドのようなものを描いてどこが面白いかと聞いたから、余は、自然の経過は人情の経過と同じような興味をもって読む事のできるものだ、普通のが人情小説なら、コンラッドのは自然情小説だと答え
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