なもので、生涯|寐《ね》られつこない訳になる。と解《わか》つてゐるが晩《ばん》になると又はつと思ふ。
此困難は約一年許りで何時《いつ》の間《ま》にか漸く遠退《とほの》いた。代助は昨夕《ゆふべ》の夢《ゆめ》と此困難とを比較して見て、妙に感じた。正気の自己《じこ》の一部分を切り放《はな》して、其儘の姿《すがた》として、知らぬ間《ま》に夢の中《なか》へ譲《ゆづ》り渡す方が趣《おもむき》があると思つたからである。同時に、此作用は気狂《きちがひ》になる時の状態と似て居はせぬかと考へ付いた。代助は今迄、自分は激昂しないから気狂《きちがひ》にはなれないと信じてゐたのである。
五の三
それから二三日は、代助も門野《かどの》も平岡の消息を聞《き》かずに過《す》ごした。四日目《よつかめ》の午過《ひるすぎ》に代助は麻布《あざぶ》のある家《いへ》へ園遊会に呼ばれて行《い》つた。御客は男女を合せて、大分《だいぶ》来《き》たが、正賓と云ふのは、英国の国会議員とか実業家とかいふ、無暗に脊の高い男と、それから鼻眼鏡をかけた其細君とであつた。これは中《なか》々の美人で、日本抔へ来《く》るには勿体な
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