、如何にして三千代を救《すく》ひ得べきかの問題であつた。
 最後に彼の周囲を人間のあらん限《かぎ》り包《つゝ》む社会に対しては、彼は何の考も纏めなかつた。事実として、社会は制裁の権を有してゐた。けれども動機行為の権は全く自己の天分から湧いて出《で》るより外に道はないと信じた。かれは此点に於て、社会と自分との間には全く交渉のないものと認めて進行する気であつた。
 代助は彼《かれ》の小《ちい》さな世界の中心に立つて、彼《かれ》の世界を斯様に観て、一順其関係比例を頭《あたま》の中で調べた上、
「善《よ》からう」と云つて、又|家《いへ》を出た。さうして一二丁|歩《ある》いて、乗り付《つ》けの帳場迄|来《き》て、奇麗で早《はや》さうな奴《やつ》を択んで飛び乗《の》つた。何処《どこ》へ行く当《あて》もないのを好加減な町を名指《なざ》して二時間程ぐる/\乗り廻《まは》して帰《かへ》つた。
 翌日も書斎の中《なか》で前日同様、自分の世界の中心に立つて、左右前後を一応|隈《くま》なく見渡した後《あと》、
「宜《よろ》しい」と云つて外《そと》へ出て、用もない所を今度は足に任せてぶら/\歩《ある》いて帰つた
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