を通《とほ》したが何処《どこ》も彼の注意を惹《ひ》く様な所はなかつた。最後の一冊に至つては、其名前さへ既に忘れてゐた。何《いづ》れ其中《そのうち》読む事にしやうと云ふ考で、一所に纏《まと》めた儘、立つて、本棚の上《うへ》に重《かさ》ねて置いた。椽側から外《そと》を窺《うかゞ》うと、奇麗な空《そら》が、高い色《いろ》を失《うしな》ひかけて、隣《となり》の梧桐《ごとう》の一際《ひときは》濃《こ》く見える上《うへ》に、薄《うす》い月《つき》が出《で》てゐた。
そこへ門野《かどの》が大きな洋燈《ランプ》を持つて這入《はい》つて来《き》た。それには絹縮《きぬちゞみ》の様《やう》に、竪《たて》に溝《みぞ》の入《い》つた青い笠《かさ》が掛《か》けてあつた。門野《かどの》はそれを洋卓《テーブル》の上《うへ》に置《お》いて、又椽側へ出《で》たが、出掛《でがけ》に、
「もう、そろ/\蛍《ほたる》が出《で》る時分ですな」と云つた。代助は可笑《をかし》な顔《かほ》をして、
「まだ出《で》やしまい」と答へた。すると門野《かどの》は例の如く、
「左様《さう》でしやうか」と云ふ返事をしたが、すぐ真面目《まじめ》な
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