》て、話があるから一寸《ちよつと》来《こ》いつて云ふんだが、――何《なに》親爺《おやぢ》を呼《よ》び出さないでも可《い》いから、誰《だれ》にでも左様《さう》云つて呉《く》れ給へ」
「はあ」
門野《かどの》は無雑作に出《で》て行つた。代助は茶の間《ま》から、座敷を通《とほ》つて書斎へ帰つた。見ると、奇麗に掃除《さうじ》が出来てゐる。落椿《おちつばき》も何所《どこ》かへ掃《は》き出されて仕舞つた。代助は花瓶《くわへい》の右手《みぎて》にある組《く》み重《かさ》ねの書棚《しよだな》の前《まへ》へ行つて、上《うへ》に載せた重い写真帖を取り上《あ》げて、立《た》ちながら、金《きん》の留金《とめがね》を外《はづ》して、一枚二枚と繰《く》り始めたが、中頃迄|来《き》てぴたりと手《て》を留《と》めた。其所《そこ》には廿歳《はたち》位の女の半身《はんしん》がある。代助は眼《め》を俯せて凝《じつ》と女の顔を見詰めてゐた。
二の一
着物《きもの》でも着換《きか》へて、此方《こつち》から平岡《ひらをか》の宿《やど》を訪《たづ》ね様かと思つてゐる所へ、折よく先方《むかふ》から遣《や》つて来
前へ
次へ
全490ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング