料理人を見給へ。生活の為《ため》に働らく事は抜目《ぬけめ》のない男だらうが、自分の技芸たる料理其物のために働《はた》らく点から云へば、頗る不誠実ぢやないか、堕落料理人ぢやないか」
「だつて左様《さう》しなければ解雇されるんだから仕方があるまい」
「だからさ。衣食に不自由のない人が、云はゞ、物数奇にやる働《はた》らきでなくつちや、真面目《まじめ》な仕事は出来《でき》るものぢやないんだよ」
「さうすると、君の様な身分のものでなくつちや、神聖の労力は出来ない訳だ。ぢや益《ます/\》遣《や》る義務がある。なあ三千代」
「本当ですわ」
「何だか話《はなし》が、元《もと》へ戻つちまつた。是だから議論は不可《いけ》ないよ」と云つて、代助は頭《あたま》を掻《か》いた。議論はそれで、とう/\御仕舞になつた。

       七の一

 代助は風呂《ふろ》へ這入《はいつ》た。
「先生、何《ど》うです、御燗《おかん》は。もう少し燃《も》させませうか」と門野《かどの》が突然《とつぜん》入り口《ぐち》から顔《かほ》を出《だ》した。門野《かどの》は斯《か》う云ふ事には能《よ》く気《き》の付《つ》く男である。代助は
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