まじめ》だと信じてゐた動機でさへ、必竟は自分の未来を救ふ手段である。平岡から見れば、固《もと》より真摯なものとは云へなかつた。まして、其他の談話に至ると、始めから、平岡を現在の立場から、自分の望む所へ落《おと》し込まうと、たくらんで掛《かゝ》つた、打算《ださん》的のものであつた。従つて平岡を何《ど》うする事も出来なかつた。
もし思ひ切つて、三千代を引合《ひきあひ》に出《だ》して、自分の考へ通りを、遠慮なく正面から述《の》べ立てたら、もつと強い事が云へた。もつと平岡を動揺《ゆすぶ》る事が出来た。もつと彼《かれ》の肺腑に入る事が出来た。に違《ちがひ》ない。其代り遣《や》り損《そこな》へば、三千代に迷惑がかゝつて来《く》る。平岡と喧嘩になる。かも知れない。
代助は知らず/\の間《あひだ》に、安全にして無能力な方針を取つて、平岡に接してゐた事を腑甲斐なく思つた。もし斯《か》う云ふ態度で平岡に当《あた》りながら、一方では、三千代の運命を、全然平岡に委《ゆだ》ねて置けない程の不安があるならば、それは論理の許《ゆる》さぬ矛盾を、厚顔《こうがん》に犯してゐたと云はなければならない。
代助は昔《むかし》の人《ひと》が、頭脳《づのう》の不明瞭な所から、実は利己本位の立場に居りながら、自《みづか》らは固《かた》く人《ひと》の為《ため》と信じて、泣《な》いたり、感じたり、激したり、して、其結果遂に相手を、自分の思ふ通りに動《うご》かし得たのを羨《うらや》ましく思つた。自分の頭《あたま》が、その位のぼんやりさ加減であつたら、昨夕《ゆふべ》の会談にも、もう少し感激して、都合のいゝ効果を収める事が出来たかも知れない。彼は人《ひと》から、ことに自分の父《ちゝ》から、熱誠の足りない男だと云はれてゐた。彼《かれ》の解剖によると、事実は斯《か》うであつた。人間《にんげん》は熱誠を以て当《あた》つて然るべき程に、高尚な、真摯な、純粋な、動機や行為を常住に有するものではない。夫よりも、ずつと下等なものである。其下等な動機や行為を、熱誠に取り扱ふのは、無分別なる幼稚な頭脳の所有者か、然らざれば、熱誠を衒《てら》つて、己れを高くする山師《やまし》に過ぎない。だから彼《かれ》の冷淡は、人間としての進歩とは云へまいが、よりよく人間を解剖した結果には外《ほか》ならなかつた。彼は普通自分の動機や行為を、よく吟味し
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