設けた御客が来《き》たので、代助は約束通りすぐ父《ちゝ》の所へ知《し》らせに行《い》つた。父《ちゝ》は、案《あん》のじよう、
「左様《さう》か」とすぐ立ち上《あ》がつた丈であつた。代助に小言《こごと》を云ふ暇《ひま》も何《なに》も無《な》かつた。代助は座敷へ引き返《かへ》して来《き》て、袴を穿《は》いて、それから応接間へ出た。客と主人とはそこで悉《ことごと》く顔を合はせた。父《ちゝ》と高木とが第一に話《はなし》を始めた。梅子は重《おも》に佐川の令嬢の相手になつた。そこへ兄《あに》が今朝《けさ》の通りの服装《なり》で、のつそりと這入つて来《き》た。
「いや、何《ど》うも遅《おそ》くなりまして」と客の方に挨拶をしたが、席に就いたとき、代助を振り返《かへ》つて、
「大分《だいぶ》早《はや》かつたね」と小《ちい》さな声を掛けた。
 食堂には応接|室《しつ》の次《つぎ》の間《ま》を使つた。代助は戸《と》の開《あ》いた間《あひだ》から、白《しろ》い卓布の角《かど》の際立《きはだ》つた色《いろ》を認めて、午餐は洋食だと心づいた。梅子は一寸《ちよつと》席を立つて、次《つぎ》の入口《いりぐち》を覗《のぞ》きに行つた。それは父《ちゝ》に、食卓の準備が出来|上《あが》つた旨《むね》を知らせる為《ため》であつた。
「では何《ど》うぞ」と父《ちゝ》は立ち上《あ》がつた。高木も会釈して立ち上《あ》がつた。佐川の令嬢も叔父《おぢ》に継《つ》いで立ち上《あ》がつた。代助は其時、女の腰から下《した》の、比較的に細く長《なが》い事を発見した。食卓では、父《ちゝ》と高木が、真中《まんなか》に向き合つた。高木の右に梅子が坐つて、父《ちゝ》の左に令嬢が席を占《し》めた。女同志が向き合つた如く、誠吾と代助も向き合つた。代助は五味台《クルエツト、スタンド》を中《なか》に、少し斜《なゝめ》に反《そ》れた位地から令嬢の顔《かほ》を眺める事になつた。代助は其|頬《ほゝ》の肉と色が、著《いちぢ》るしく後《うしろ》の窓から射《さ》す光線の影響を受けて、鼻の境《さかひ》に暗過《くらす》ぎる影《かげ》を作つた様に思つた。其代り耳に接した方は、明《あき》らかに薄紅《うすくれなゐ》であつた。殊に小さい耳が、日《ひ》の光を透《とほ》してゐるかの如くデリケートに見えた。皮膚《ひふ》とは反対に、令嬢は黒い鳶色の大きな眼《め》を有したゐ
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