して見ると、平岡の事情は、依然として発展してゐなかつた。もう近頃は運動しても当分駄目だから、毎日|斯《か》うして遊《あそ》んで歩《ある》く。それでなければ、宅《うち》に寐《ね》てゐるんだと云つて、大きな声を出《だ》して笑つて見せた。代助もそれが可《よ》からうと答へたなり、後《あと》は当《あた》らず障らずの世間話《せけんばなし》に時間《じかん》を潰《つぶ》してゐた。けれども自然に出《で》る世間|話《ばなし》といふよりも、寧ろある問題を回避する為《ため》の世間話《せけんばなし》だから、両方共に緊張《きんちよう》を腹《はら》の底《そこ》に感《かん》じてゐた。
平岡は三千代の事も、金《かね》の事も口《くち》へ出《だ》さなかつた。従《した》がつて三日前《みつかまへ》代助が彼《かれ》の留守宅を訪問した事に就ても何も語《かた》らなかつた。代助も始めのうちは、わざと、その点に触《ふ》れないで澄《すま》してゐたが、何時《いつ》迄|経《た》つても、平岡の方で余所《よそ》々々しく構へてゐるので、却つて不安になつた。
「実は二三日|前《まへ》君の所《ところ》へ行つたが、君は留守だつたね」と云ひ出した。
「うん。左様《さう》だつたさうだね。其節は又難有う。御|蔭《かげ》さまで。――なに、君を煩はさないでも何《ど》うかなつたんだが、彼奴《あいつ》があまり心配し過《すぎ》て、つい君に迷惑を掛けて済《す》まない」と冷淡な礼を云つた。それから、
「僕も実は御礼に来《き》た様《やう》なものだが、本当の御礼には、いづれ当人が出《で》るだらうから」と丸で三千代と自分を別物《べつもの》にした言分《いひぶん》であつた。代助はたゞ、
「そんな面倒な事をする必要があるものか」と答へた。話《はなし》は是で切れた。が又両方に共通で、しかも、両方のあまり興味を持《も》たない方面に摺《ず》り滑《すべ》つて行《い》つた。すると、平岡が突然、
「僕はことによると、もう実業は已《や》めるかも知れない。実際|内幕《うちまく》を知れば知る程|厭《いや》になる。其上|此方《こつち》へ来《き》て、少し運動をして見て、つくづく勇気がなくなつた」と心底《しんそこ》かららしい告白をした。代助は、一口《ひとくち》、
「それは、左様《さう》だらう」と答へた。平岡はあまり此返事の冷淡なのに驚ろいた様子であつた。が、又あとを付《つ》けた。
「先達
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