の実家へ電報を打ちに出たのです。
私が帰った時は、Kの枕元《まくらもと》にもう線香が立てられていました。室へはいるとすぐ仏臭《ほとけくさ》い烟《けむり》で鼻を撲《う》たれた私は、その烟の中に坐《すわ》っている女二人を認めました。私がお嬢さんの顔を見たのは、昨夜来《さくやらい》この時が始めてでした。お嬢さんは泣いていました。奥さんも眼を赤くしていました。事件が起ってからそれまで泣く事を忘れていた私は、その時ようやく悲しい気分に誘われる事ができたのです。私の胸はその悲しさのために、どのくらい寛《くつ》ろいだか知れません。苦痛と恐怖でぐいと握り締められた私の心に、一滴《いってき》の潤《うるおい》を与えてくれたものは、その時の悲しさでした。
私は黙って二人の傍《そば》に坐っていました。奥さんは私にも線香を上げてやれといいます。私は線香を上げてまた黙って坐っていました。お嬢さんは私には何ともいいません。たまに奥さんと一口《ひとくち》|二口《ふたくち》言葉を換《か》わす事がありましたが、それは当座の用事についてのみでした。お嬢さんにはKの生前について語るほどの余裕がまだ出て来なかったのです。私
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