鉢の傍《そば》を離れる訳にゆきません。下女《げじょ》を呼んで膳《ぜん》を下げさせた上、鉄瓶《てつびん》に水を注《さ》したり、火鉢の縁《ふち》を拭《ふ》いたりして、私に調子を合わせています。私は奥さんに特別な用事でもあるのかと問いました。奥さんはいいえと答えましたが、今度は向うでなぜですと聞き返して来ました。私は実は少し話したい事があるのだといいました。奥さんは何ですかといって、私の顔を見ました。奥さんの調子はまるで私の気分にはいり込めないような軽いものでしたから、私は次に出すべき文句も少し渋りました。
私は仕方なしに言葉の上で、好《い》い加減にうろつき廻《まわ》った末、Kが近頃《ちかごろ》何かいいはしなかったかと奥さんに聞いてみました。奥さんは思いも寄らないという風をして、「何を?」とまた反問して来ました。そうして私の答える前に、「あなたには何かおっしゃったんですか」とかえって向うで聞くのです。
四十五
「Kから聞かされた打ち明け話を、奥さんに伝える気のなかった私は、「いいえ」といってしまった後で、すぐ自分の嘘《うそ》を快《こころよ》からず感じました。仕方がないから、別
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