ました。彼はいつも話す通り頗《すこぶ》る強情《ごうじょう》な男でしたけれども、一方ではまた人一倍の正直者でしたから、自分の矛盾などをひどく非難される場合には、決して平気でいられない質《たち》だったのです。私は彼の様子を見てようやく安心しました。すると彼は卒然《そつぜん》「覚悟?」と聞きました。そうして私がまだ何とも答えない先に「覚悟、――覚悟ならない事もない」と付け加えました。彼の調子は独言《ひとりごと》のようでした。また夢の中の言葉のようでした。
二人はそれぎり話を切り上げて、小石川《こいしかわ》の宿の方に足を向けました。割合に風のない暖かな日でしたけれども、何しろ冬の事ですから、公園のなかは淋《さび》しいものでした。ことに霜に打たれて蒼味《あおみ》を失った杉の木立《こだち》の茶褐色《ちゃかっしょく》が、薄黒い空の中に、梢《こずえ》を並べて聳《そび》えているのを振り返って見た時は、寒さが背中へ噛《かじ》り付いたような心持がしました。我々は夕暮の本郷台《ほんごうだい》を急ぎ足でどしどし通り抜けて、また向うの岡《おか》へ上《のぼ》るべく小石川の谷へ下りたのです。私はその頃《ころ》になっ
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