度は取り戻そうという下心《したごころ》を持っていました。それで時々眼を上げて、襖を眺《なが》めました。しかしその襖はいつまで経《た》っても開《あ》きません。そうしてKは永久に静かなのです。
 その内《うち》私の頭は段々この静かさに掻《か》き乱されるようになって来ました。Kは今襖の向うで何を考えているだろうと思うと、それが気になって堪《たま》らないのです。不断もこんな風《ふう》にお互いが仕切一枚を間に置いて黙り合っている場合は始終あったのですが、私はKが静かであればあるほど、彼の存在を忘れるのが普通の状態だったのですから、その時の私はよほど調子が狂っていたものと見なければなりません。それでいて私はこっちから進んで襖を開ける事ができなかったのです。一旦《いったん》いいそびれた私は、また向うから働き掛けられる時機を待つより外《ほか》に仕方がなかったのです。
 しまいに私は凝《じっ》としておられなくなりました。無理に凝としていれば、Kの部屋へ飛び込みたくなるのです。私は仕方なしに立って縁側へ出ました。そこから茶の間へ来て、何という目的もなく、鉄瓶《てつびん》の湯を湯呑《ゆのみ》に注《つい》で一
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