さんは私だけに解《わか》るように、持前《もちまえ》の親切を余分に私の方へ割り宛《あ》ててくれたのです。だからKは別に厭《いや》な顔もせずに平気でいました。私は心の中《うち》でひそかに彼に対する※[#「りっしんべん+榿のつくり」、第3水準1−84−59]歌《がいか》を奏しました。
やがて夏も過ぎて九月の中頃《なかごろ》から我々はまた学校の課業に出席しなければならない事になりました。Kと私とは各自《てんでん》の時間の都合で出入りの刻限にまた遅速ができてきました。私がKより後《おく》れて帰る時は一週に三度ほどありましたが、いつ帰ってもお嬢さんの影をKの室《へや》に認める事はないようになりました。Kは例の眼を私の方に向けて、「今帰ったのか」を規則のごとく繰り返しました。私の会釈もほとんど器械のごとく簡単でかつ無意味でした。
たしか十月の中頃と思います。私は寝坊《ねぼう》をした結果、日本服《にほんふく》のまま急いで学校へ出た事があります。穿物《はきもの》も編上《あみあげ》などを結んでいる時間が惜しいので、草履《ぞうり》を突っかけたなり飛び出したのです。その日は時間割からいうと、Kよりも私の方
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