う事がよくありました。それだけならまだいいのですが、時にはKの方でも私と同じような希望を抱《いだ》いて岩の上に坐っているのではないかしらと忽然《こつぜん》疑い出すのです。すると落ち付いてそこに書物をひろげているのが急に厭になります。私は不意に立ち上《あが》ります。そうして遠慮のない大きな声を出して怒鳴《どな》ります。纏《まと》まった詩だの歌だのを面白そうに吟《ぎん》ずるような手緩《てぬる》い事はできないのです。ただ野蛮人のごとくにわめくのです。ある時私は突然彼の襟頸《えりくび》を後ろからぐいと攫《つか》みました。こうして海の中へ突き落したらどうするといってKに聞きました。Kは動きませんでした。後ろ向きのまま、ちょうど好《い》い、やってくれと答えました。私はすぐ首筋を抑《おさ》えた手を放しました。
 Kの神経衰弱はこの時もう大分《だいぶ》よくなっていたらしいのです。それと反比例に、私の方は段々過敏になって来ていたのです。私は自分より落ち付いているKを見て、羨《うらや》ましがりました。また憎らしがりました。彼はどうしても私に取り合う気色《けしき》を見せなかったからです。私にはそれが一種の自
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