好《い》い心持ではなかったのです。私が最初希望した通りになるのが、何で私の心持を悪くするのかといわれればそれまでです。私は馬鹿に違いないのです。果《はて》しのつかない二人の議論を見るに見かねて奥さんが仲へ入りました。二人はとうとういっしょに房州《ぼうしゅう》へ行く事になりました。

     二十八

「Kはあまり旅へ出ない男でした。私《わたくし》にも房州《ぼうしゅう》は始めてでした。二人は何にも知らないで、船が一番先へ着いた所から上陸したのです。たしか保田《ほた》とかいいました。今ではどんなに変っているか知りませんが、その頃《ころ》はひどい漁村でした。第一《だいち》どこもかしこも腥《なまぐさ》いのです。それから海へ入ると、波に押し倒されて、すぐ手だの足だのを擦《す》り剥《む》くのです。拳《こぶし》のような大きな石が打ち寄せる波に揉《も》まれて、始終ごろごろしているのです。
 私はすぐ厭《いや》になりました。しかしKは好《い》いとも悪いともいいません。少なくとも顔付《かおつき》だけは平気なものでした。そのくせ彼は海へ入るたんびにどこかに怪我《けが》をしない事はなかったのです。私はとうと
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