しかわ》の坂を真直《まっすぐ》に伝通院《でんずういん》の方へ上がりました。電車の通路になってから、あそこいらの様子がまるで違ってしまいましたが、その頃《ころ》は左手が砲兵工廠《ほうへいこうしょう》の土塀《どべい》で、右は原とも丘ともつかない空地《くうち》に草が一面に生えていたものです。私はその草の中に立って、何心《なにごころ》なく向うの崖《がけ》を眺《なが》めました。今でも悪い景色ではありませんが、その頃はまたずっとあの西側の趣《おもむき》が違っていました。見渡す限り緑が一面に深く茂っているだけでも、神経が休まります。私はふとここいらに適当な宅《うち》はないだろうかと思いました。それで直《す》ぐ草原《くさはら》を横切って、細い通りを北の方へ進んで行きました。いまだに好《い》い町になり切れないで、がたぴししているあの辺《へん》の家並《いえなみ》は、その時分の事ですからずいぶん汚ならしいものでした。私は露次《ろじ》を抜けたり、横丁《よこちょう》を曲《まが》ったり、ぐるぐる歩き廻《まわ》りました。しまいに駄菓子屋《だがしや》の上《かみ》さんに、ここいらに小ぢんまりした貸家《かしや》はないかと
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