きました。ただ行くばかりでなく、よくそこに泊りました。そうしてこの従妹とはその時分から親しかったのです。あなたもご承知でしょう、兄妹《きょうだい》の間に恋の成立した例《ためし》のないのを。私はこの公認された事実を勝手に布衍《ふえん》しているかも知れないが、始終接触して親しくなり過ぎた男女《なんにょ》の間には、恋に必要な刺戟《しげき》の起る清新な感じが失われてしまうように考えています。香《こう》をかぎ得《う》るのは、香を焚《た》き出した瞬間に限るごとく、酒を味わうのは、酒を飲み始めた刹那《せつな》にあるごとく、恋の衝動にもこういう際《きわ》どい一点が、時間の上に存在しているとしか思われないのです。一度平気でそこを通り抜けたら、馴《な》れれば馴れるほど、親しみが増すだけで、恋の神経はだんだん麻痺《まひ》して来るだけです。私はどう考え直しても、この従妹《いとこ》を妻にする気にはなれませんでした。
 叔父《おじ》はもし私が主張するなら、私の卒業まで結婚を延ばしてもいいといいました。けれども善は急げという諺《ことわざ》もあるから、できるなら今のうちに祝言《しゅうげん》の盃《さかずき》だけは済ませ
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