のいう所は、去年の勧誘を再び繰り返したのみです。理由も去年と同じでした。ただこの前|勧《すす》められた時には、何らの目的物がなかったのに、今度はちゃんと肝心《かんじん》の当人を捕《つら》まえていたので、私はなお困らせられたのです。その当人というのは叔父の娘すなわち私の従妹《いとこ》に当る女でした。その女を貰《もら》ってくれれば、お互いのために便宜である、父も存生中《ぞんしょうちゅう》そんな事を話していた、と叔父がいうのです。私もそうすれば便宜だとは思いました。父が叔父にそういう風《ふう》な話をしたというのもあり得《う》べき事と考えました。しかしそれは私が叔父にいわれて、始めて気が付いたので、いわれない前から、覚《さと》っていた事柄ではないのです。だから私は驚きました。驚いたけれども、叔父の希望に無理のないところも、それがためによく解《わか》りました。私は迂闊《うかつ》なのでしょうか。あるいはそうなのかも知れませんが、おそらくその従妹に無頓着《むとんじゃく》であったのが、おもな源因《げんいん》になっているのでしょう。私は小供《こども》のうちから市《し》にいる叔父の家《うち》へ始終遊びに行
前へ
次へ
全371ページ中193ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング