人に与えるくらいなら、私はむしろ私の経験を私の生命《いのち》と共に葬《ほうむ》った方が好《い》いと思います。実際ここにあなたという一人の男が存在していないならば、私の過去はついに私の過去で、間接にも他人の知識にはならないで済んだでしょう。私は何千万といる日本人のうちで、ただあなただけに、私の過去を物語りたいのです。あなたは真面目《まじめ》だから。あなたは真面目に人生そのものから生きた教訓を得たいといったから。
私は暗い人世の影を遠慮なくあなたの頭の上に投げかけて上げます。しかし恐れてはいけません。暗いものを凝《じっ》と見詰めて、その中からあなたの参考になるものをお攫《つか》みなさい。私の暗いというのは、固《もと》より倫理的に暗いのです。私は倫理的に生れた男です。また倫理的に育てられた男です。その倫理上の考えは、今の若い人と大分《だいぶ》違ったところがあるかも知れません。しかしどう間違っても、私自身のものです。間に合せに借りた損料着《そんりょうぎ》ではありません。だからこれから発達しようというあなたには幾分か参考になるだろうと思うのです。
あなたは現代の思想問題について、よく私に議論
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