ちる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう。とくに死んでいるでしょう」
私ははっと思った。今までざわざわと動いていた私の胸が一度に凝結《ぎょうけつ》したように感じた。私はまた逆に頁をはぐり返した。そうして一枚に一句ぐらいずつの割で倒《さかさ》に読んで行った。私は咄嗟《とっさ》の間《あいだ》に、私の知らなければならない事を知ろうとして、ちらちらする文字《もんじ》を、眼で刺し通そうと試みた。その時私の知ろうとするのは、ただ先生の安否だけであった。先生の過去、かつて先生が私に話そうと約束した薄暗いその過去、そんなものは私に取って、全く無用であった。私は倒《さかさ》まに頁をはぐりながら、私に必要な知識を容易に与えてくれないこの長い手紙を自烈《じれっ》たそうに畳んだ。
私はまた父の様子を見に病室の戸口まで行った。病人の枕辺《まくらべ》は存外《ぞんがい》静かであった。頼りなさそうに疲れた顔をしてそこに坐っている母を手招《てまね》ぎして、「どうですか様子は」と聞いた。母は「今少し持ち合ってるようだよ」と答えた。私は父の眼の前へ顔を出して、「どうです、浣腸して少しは心持が好くなりましたか」と尋ね
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