いしょう》に済まない。実に面目次第《めんぼくしだい》がない。いえ私もすぐお後《あと》から」
こんな言葉をひょいひょい出した。母は気味を悪がった。なるべくみんなを枕元《まくらもと》へ集めておきたがった。気のたしかな時は頻《しき》りに淋《さび》しがる病人にもそれが希望らしく見えた。ことに室《へや》の中《うち》を見廻《みまわ》して母の影が見えないと、父は必ず「お光《みつ》は」と聞いた。聞かないでも、眼がそれを物語っていた。私《わたくし》はよく起《た》って母を呼びに行った。「何かご用ですか」と、母が仕掛《しか》けた用をそのままにしておいて病室へ来ると、父はただ母の顔を見詰めるだけで何もいわない事があった。そうかと思うと、まるで懸け離れた話をした。突然「お光お前《まえ》にも色々世話になったね」などと優《やさ》しい言葉を出す時もあった。母はそういう言葉の前にきっと涙ぐんだ。そうした後ではまたきっと丈夫であった昔の父をその対照として想《おも》い出すらしかった。
「あんな憐《あわ》れっぽい事をお言いだがね、あれでもとはずいぶん酷《ひど》かったんだよ」
母は父のために箒《ほうき》で背中をどやされた時
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