会わなかったので、また懸け隔たった遠くにいたので、時からいっても距離からいっても、兄はいつでも私には近くなかったのである。それでも久しぶりにこう落ち合ってみると、兄弟の優《やさ》しい心持がどこからか自然に湧《わ》いて出た。場合が場合なのもその大きな源因《げんいん》になっていた。二人に共通な父、その父の死のうとしている枕元《まくらもと》で、兄と私は握手したのであった。
「お前これからどうする」と兄は聞いた。私はまた全く見当の違った質問を兄に掛けた。
「一体|家《うち》の財産はどうなってるんだろう」
「おれは知らない。お父さんはまだ何ともいわないから。しかし財産っていったところで金としては高《たか》の知れたものだろう」
母はまた母で先生の返事の来るのを苦にしていた。
「まだ手紙は来ないかい」と私を責めた。
十五
「先生先生というのは一体|誰《だれ》の事だい」と兄が聞いた。
「こないだ話したじゃないか」と私《わたくし》は答えた。私は自分で質問をしておきながら、すぐ他《ひと》の説明を忘れてしまう兄に対して不快の念を起した。
「聞いた事は聞いたけれども」
兄は必竟《ひっきょう》
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