旨《むね》も付け加えたが、それでも気が済まなかったから、委細《いさい》手紙として、細かい事情をその日のうちに認《したた》めて郵便で出した。頼んだ位地の事とばかり信じ切った母は、「本当に間《ま》の悪い時は仕方のないものだね」といって残念そうな顔をした。
十三
私《わたくし》の書いた手紙はかなり長いものであった。母も私も今度こそ先生から何とかいって来るだろうと考えていた。すると手紙を出して二日目にまた電報が私|宛《あて》で届いた。それには来ないでもよろしいという文句だけしかなかった。私はそれを母に見せた。
「大方《おおかた》手紙で何とかいってきて下さるつもりだろうよ」
母はどこまでも先生が私のために衣食の口を周旋してくれるものとばかり解釈しているらしかった。私もあるいはそうかとも考えたが、先生の平生から推《お》してみると、どうも変に思われた。「先生が口を探してくれる」。これはあり得《う》べからざる事のように私には見えた。
「とにかく私の手紙はまだ向うへ着いていないはずだから、この電報はその前に出したものに違いないですね」
私は母に向かってこんな分り切った事をいった。母は
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