。奥さんは二、三そういう話のないでもないような事を、明らかに私に告げました。しかしまだ学校へ出ているくらいで年が若いから、こちらではさほど急がないのだと説明しました。奥さんは口へは出さないけれども、お嬢さんの容色に大分《だいぶ》重きを置いているらしく見えました。極《き》めようと思えばいつでも極められるんだからというような事さえ口外しました。それからお嬢さんより外《ほか》に子供がないのも、容易に手離したがらない源因《げんいん》になっていました。嫁にやるか、聟《むこ》を取るか、それにさえ迷っているのではなかろうかと思われるところもありました。
 話しているうちに、私は色々の知識を奥さんから得たような気がしました。しかしそれがために、私は機会を逸《いっ》したと同様の結果に陥《おちい》ってしまいました。私は自分について、ついに一言《いちごん》も口を開く事ができませんでした。私は好《い》い加減なところで話を切り上げて、自分の室《へや》へ帰ろうとしました。
 さっきまで傍《そば》にいて、あんまりだわとか何とかいって笑ったお嬢さんは、いつの間にか向うの隅に行って、背中をこっちへ向けていました。私は立とうとして振り返った時、その後姿《うしろすがた》を見たのです。後姿だけで人間の心が読めるはずはありません。お嬢さんがこの問題についてどう考えているか、私には見当が付きませんでした。お嬢さんは戸棚を前にして坐《すわ》っていました。その戸棚の一|尺《しゃく》ばかり開《あ》いている隙間《すきま》から、お嬢さんは何か引き出して膝《ひざ》の上へ置いて眺《なが》めているらしかったのです。私の眼はその隙間の端《はじ》に、一昨日《おととい》買った反物《たんもの》を見付け出しました。私の着物もお嬢さんのも同じ戸棚の隅に重ねてあったのです。
 私が何ともいわずに席を立ち掛けると、奥さんは急に改まった調子になって、私にどう思うかと聞くのです。その聞き方は何をどう思うのかと反問しなければ解《わか》らないほど不意でした。それがお嬢さんを早く片付けた方が得策だろうかという意味だと判然《はっきり》した時、私はなるべく緩《ゆっ》くらな方がいいだろうと答えました。奥さんは自分もそう思うといいました。
 奥さんとお嬢さんと私の関係がこうなっている所へ、もう一人男が入《い》り込まなければならない事になりました。その男がこの
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