る。が、過去において日本人が既にこれだけの仕事をして置いてくれたという自覚は、未来の発展に少《すくな》からぬ感化を与えるに違いない。だから余は喜んで『東洋美術図譜』を読者に紹介する。このうちから東洋にのみあって、西洋の美術には見出し得《う》べからざる特長《とくちょう》を観得《かんとく》する事が出来るならば、たといその特長が全体にわたらざる一種の風致《ふうち》にせよ、観得し得《え》ただけそれだけその人の過去を偉大ならしむる訳である。従ってその人の将来をそれだけインスパイヤーする訳である。
[#地から2字上げ]――明治四三、一、五『東京朝日新聞』――
底本:「漱石文明論集」岩波文庫、岩波書店
1986(昭和61)年10月16日第1刷発行
1998(平成10)年7月24日第26刷発行
入力:柴田卓治
校正:福地博文
1999年8月4日公開
2003年10月9日修正
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