なつたやうである。
五月の甲州街道はまことによろしい。
桂川峡では河鹿が鳴いてゐた。
山にも野にもいろ/\の花が咲いてゐる。
猿橋。
[#ここから2字下げ]
・若葉かゞやく今日は猿橋を渡る
[#ここで字下げ終わり]
こんな句が出来るのも旅の一興だ。
甲府まで汽車、笹子峠は長かつた、大菩薩峠の名に心をひかれた。
甲斐絹水晶の産地、葡萄郷、安宿は雑然騒然、私のやうな旅人は何となくものかなしくなる、酒を呷つて甲府銀座をさまよふ。
老を痛切に感じる、ともかくも今日までは死なゝいでゐるけれど!(生きてゐたのではない)
desperate character !
[#ここから2字下げ]
・しつとり濡れて草もわたしもてふてふも
[#ここで字下げ終わり]
五月六日[#「五月六日」に二重傍線] 曇。
何も彼も暗い、天も地も人も。
[#ここから3字下げ]
(自嘲)
どうにもならない生きものが夜の底に
(追加)
旅はいつしか春めく泡盛をあほる
[#ここで字下げ終わり]
五月七日[#「五月七日」に二重傍線] とう/\雨となつた。
緑平老から旅費を送つて貰ふ。
ありがたしかたじけなし。
孤独
前へ
次へ
全80ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング