な散歩者として。――
五月八日[#「五月八日」に二重傍線] 曇。
心機一転、これから私は私らしい旅人として出立しなければならない。
我儘は私の性だから、それはそれとしてよろしいけれど、ブルジヨア的であつてはならない、執着しない我儘でなければならない。
[#ここから2字下げ]
・風は五月のさわやかな死にざま
・ひよいと月が出てゐた富士のむかうから
(甲州から信州へ)
・日の照れば雪山のいよいよ白し
・尿するそこら草の芽だらけ
・こんなに蕎麦がうまい浅間のふもとにゐる
江畔老に鼻頭橋まで見送られて
橋までいつしよに、それからまた一人旅
・浅間をまへにまいにち畑打つてふてふ
・落花ちりこむ壁土のねばりやう
・浅間はつきりとぶてふてふ
・芽ぶいて落葉松落葉は寝ころぶによく
・新道が旧道に草萌ゆる
・袂草のいつとなくたまつてゐる捨てる
碓氷山中雑詠
・木の芽あかるい家があつて誰もゐない
・道がわからなくなり啼く鳥歩く鳥
・遠くなり近くなる水音の一人
・山のふかさはみな芽ぶく
・誰にも逢はない呼子鳥啼く
・はるかにあかるく山ざくら花ざかり
・山ふかうしてなんとするどく
・足もとあやうく咲いてゐる一りん
・春日さんらんとして白樺の肌
・ふと河鹿なくたゝずみて聴く
(追加)
・古びた鯉幟も、屋根には石をおき
・はてしなき旅空の爆音を仰ぐ
・まともに見えてくる妙義でこぼこ
( 〃 )
・行き暮れてほの白くからたちの花
・けふは今日の太陽をいたゞいて行く
・一人となれば分け入る山のかつこう
・うそ寒う夕焼けて山羊がないて
稔郎居
・ゆうべいそがしい音は打つてくださる蕎麦で
江畔老と共に岩子鉱泉に
・はなしがとだえると蛙げろげろ
自省
・衣かへて心いれかへて旅もあらためて
・親馬仔馬みんな戻つてくるあたゝかし
・桑畑芽ぶく中の奉安殿
・浅間朝からあざやかな雲雀の唄です
(追加一句)追分
・こゝで休むとする道の分れるところ
・芽ぶく林の白樺の白く
[#ここで字下げ終わり]
「わびしさも」
五月八日[#「五月八日」に二重傍線](続)
高原、山国らしく、かるさん姿のよろしさ。
たうとう行き暮れてしまつた、泊めてくれるところがない、ままよ今までの贅沢を償ふ意味でも野宿しよう、といふ覚悟で、とぼ/\峠を登つて行くと、ルンペン君
前へ
次へ
全40ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング