で加減して何度も入浴する、奥さんが呆れて笑はれる。
湯、そして酒、あゝ極楽々々。
午後だん/\晴れる、一郎君といつしよに下田へ向ふ。
山蕗[#「山蕗」に傍点]が咲きほうけてゐる、ふきのとうが伸びて咲いて、咲きをへてゐるのである。
○伊豆の若葉はうつくしい。
白浜の色はほんたうに美しかつた、砂の白さ、海のみどり。
大[#「大」に「マヽ」の注記]平洋をまへに、墓をうしろに、砂丘にあぐらをかいて持参の酒を飲んだ。
至るところに鉱山、小さい金鉱があつた、それも伊豆らしいと思はせた。
下田近くなると、まづ玉泉寺があつた、維新史の第一頁を歩いてゐるやうだ。
浜崎の兎子居に草鞋をぬぐ、そして二三子と共に食卓を囲んで話しつゞける。
酔ふて書きなぐる、いつもの私のやうに。
そして一郎君と枕をならべて熟睡。
伊豆は、湯[#「湯」に傍点]はよいけれど水[#「水」に傍点]はよろしくない、温泉地のどこでもさうであるやうに。
伊豆に多いのは旅宿の立看板[#「立看板」に傍点]と隧道[#「隧道」に傍点]と、そしてバス。
[#ここから2字下げ]
・この木もあの木もうつくしい若葉
・別れようとして水を腹いつぱい
[#ここから1字下げ]
△天草を干しひろげる
△来の宮神社の禁酒デー
[#ここで字下げ終わり]
四月二十三日[#「四月二十三日」に二重傍線] 曇、うすら寒い。
朝早く、二人で散歩する、風が落ちて波音が耳につく、前はすぐ海だ。
牡丹の花ざかり、楓の若葉が赤い。
蛙が鳴く、頬白が囀づる。
辨天島は特異な存在である、吉田松蔭[#「蔭」に「マヽ」の注記]の故事はなつかしい。
九時すぎ、三人で下田へ、途中、一郎君と別れる、一郎君いろ/\ありがたう。
稲生沢川を渡ればまさに下田港[#「下田港」に傍点]だ、港町情調ゆたかであらう、私は通りぬけて下賀茂温泉へ。
留置の手紙は二通ありがたかつた。
雑木山がよい姿と色とを見せてくれる。
下賀茂は好きな温泉場である、雑木山につゝまれて、のびやかな湯けむりがそここゝから立ち昇る、そここゝに散在してゐる旅館もしづかでしんみりとしてゐる。
その一軒の二階に案内された、さつそく驚ろくべき熱い強塩泉[#「強塩泉」に傍点]だ、ぽか/\あたゝまつてからまた酒だ、あまり御馳走はないけれどうまい/\。
兎子君が専子君を同伴して紹介された、三人同伴で専子居へ落ちつく、兎子君は帰宅
前へ
次へ
全40ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング