にふかれつゝ
・鎌倉は松の木のよい月がのぼつた
[#ここで字下げ終わり]
大仏さん
異人さん
さくら
寺
[#ここから3字下げ]
いちはやく山ふところのさくら一もと
斎藤さんに
また逢ひませうと手を握る
[#ここから1字下げ]
東京をうたふ。
[#ここから3字下げ]
ほつと月がある東京に来てゐる
花ぐもりの富士が見えたりかくれたり
ビルからビルへ東京は私はうごく
ビルがビルに星も見えない空
ビルにて
窓へやつと芽ぶいてきた
[#ここで字下げ終わり]
四月五日[#「四月五日」に二重傍線] 快晴、鎌倉から東京へ。
眼が覚めると海がころげてくるやうな波音である。
鳴雨居はしづかな夫婦ずまゐ、別荘風のしやれた家である。
朝湯朝酒、今日に限つたことではないけれど勿体ないなあと思ふ。
雪男さん来訪、散歩する、雪男居に寄る、御馳走になる。
昨夜の召電によつていつしよに上京する、大船で約束通り蜻郎君と落ち合ふ。
うらゝかな日である。
品川へ着いてまずそこの水を飲んだ、東京の水である、電車に乗つた、東京の空である、十三年ぶりに東京へ来たのだ。
大泉園を初めて訪ねる、鎌倉の椿が咲いてゐる、井師にお目にかゝる、北朗君も来てゐる。
句会、二十名ばかり集まつた、殆んどみな初対面の方々だ。
夜は層雲社に泊めて貰ふ、犬に吠えられた、歓迎してくれたのかも知れない。
武二君、五味君、北朗君と夜の更けるのも忘れて話しつゞけた。
四月六日[#「四月六日」に二重傍線] 花ぐもり。
朝酒二三杯。
北朗君、武二君と同道して銀座へ、磊々子、一石路夢道を訪ねる。
酒、酒、酒、花、花、花、そして女、女、女。
北朗は古道具屋をまはつて、いろんなものを買ふ、私が酒を飲むやうなものだろう。
四月七日[#「四月七日」に二重傍線] 花ぐもり。
浅草風景(新浅草観賞)。
定食八銭は安い、デンキブランはうまい、喜劇は面白い。
あてもなくぶら/\あるく。
四月八日[#「四月八日」に二重傍線] 曇、いつしか雨となつた。
やたらに歩いた、――浅草から上野へ、それから九段へ、それから丸の内へ。
砂吐流君徃訪、これは丸ビル。
農平君徃訪、これは海上ビル。
鳳車君徃訪、これは東京ビル。
農平君と、それから魔神明君と日本橋の大 [#「 」に「マヽ」の注記]で会食。
東京駅で砂吐流君を待ち受け、新宿聚楽で夕食をす
前へ
次へ
全40ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング